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双葉郡浪江町の「いま」を知り、「発信」する~ふくしま“みち”さがし 情熱がっこう 浪江Another Sky編レポート

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 福島県と環境省が運営する「環境再生プラザ」(福島市栄町)が、2019年に3回にわたって開催する「ふくしま“みち”さがし 情熱がっこう」。同イベントは、東京電力福島第一原子力発電所事故による避難指示解除後の地域を訪れ、現地の方々からのお話を伺い、再生について学ぶもので、今年で5年目となります。
 9月14日に開催された1回目となる、双葉郡浪江町での「浪江Another Sky編」では、浪江町のキーパーソン3人のもとを訪れました。その様子を、参加者からのレポートで紹介します。


誰もが「ただいま」と帰ってこられる居場所 OCAFE 岡洋子さん(浪江まち物語つたえ隊
 浪江町の農家に嫁ぎ震災まで浪江で過ごした岡洋子さん。浪江町が帰宅困難区域となり福島市に移住しました。浪江の住んでいた家を解体するときに、娘から道しるべがなくなると悲しいと言われ、倉庫を改築してカフェをオープンさせました。
 OCAFE(オカフェ)は飲食店ではないので、決まった時間・曜日に開店しているわけではありませんが、地元の人やボランティアで浪江に縁が出来た人が気軽に集える場所として、居心地のよいカフェスペースとなっています。
 ここではコーヒーを飲みながら気軽におしゃべりができる場所として、また、震災の手記を紙芝居にして岡さんの語り部を体験することも出来ます。震災で無念な思いをした人がたくさんいることを知りました。紙芝居がアニメになり、全国から講演してほしいというお声がかかり、海外からも招待されました。
 避難中大変な困難を乗り越える中で人の優しさに触れ、今あることの幸せを感じていると語る岡さん。カフェを作ると決めた時から、みんなが元気になってきた。そして休まる場所があるから心が休まることを知り、居場所を得たと感じた、という岡さんの話を聞いて、こちらが元気をもらいました。いつまでも浪江と人を繋ぐ場所としてそこにあってほしい「ただいま」と言って訪ねていける場所です。

身の丈に合った復興を 佐藤秀三さん(浪江町自治会役員)
 帰還した住民から聞かれることは、「ホッとした」という言葉だと佐藤さん。便利さや住みやすさという言葉は出ず、とにかく生まれ育った、慣れ親しんだ場所に帰って来たかったという思いが強いと言います。
 しかしそんな中、誰が帰って来てどこに住んでいるのか自治会でも把握できていない現実があり、情報伝達が課題となっています。孤立している帰還住民もいるそう。佐藤さんは、誰か一人にひとりが関わっていければいいと思っているそうで、公助を当てにしているわけではないそうです。
 最後に佐藤さんは、「浪江町は、現状を踏まえた、『身の丈に合った復興』の道を歩むべきだと考えている。復興とは、町に人が住めるようになり、町外から人が立ち寄ってもらえるようになることに尽きる」と話してくださいました。
 東京電力福島第一原発の廃炉には、100年はかかると思っている。帰還住民や移住者だけでなく、廃炉作業員、復興作業員とも共生するまちづくりをしていくことで、浪江町は成り立っていく、という佐藤さんの言葉に、皆がうなづきました。

まちづくりの課題と希望 菅野孝明さん(一般社団法人まちづくりなみえ)
 菅野孝明さんは、昭和44年福島県川俣町出身、建設コンサルタント(ダムの調査設計)、進学準備教室企業で勤務。東京で20年勤務後、東日本大震災をきっかけに、「今、自らやりたいことをやっているか」自分への問いを立てました。
 自分が育てられた、川俣町の両親の畑が消えてしまうのを何とかしたいと思っていたところ、平成24年からNPO法人ETIC「右腕プログラム」で浪江町復興支援コーディネーターとして働くことに。それ以来、浪江町民と浪江町役場をつないで、復興事業の推進を支援する活動を実施しています。
 菅野さんのお話を伺っていて印象的だったのは、被災した建物を取り壊して空地だらけになった浪江の中心市街地を、多くの方に実際に足を運んで自らの目で見て欲しい、との言葉。そして、こんな空地だらけの浪江町に戻ってきた人は、多少不便であっても浪江町に住みたいという人達、そういう人達の「やりたい」を実現するための対話の過程が「まちづくり」である、という言葉です。
 また、こうもおっしゃっていました。浪江町で幸せに暮らしていることが広く知られるようになっていけば、浪江に戻ってきたい、住んでみたいという人達が増えていくのではないか、と。多くの人達がまた暮らす町になって欲しい、みんなでここで幸せに暮らしていこう、そんなふるさとを想う気持ちを感じた言葉でした。
 帰り際、オフィスの入り口にある赤い唐辛子が、改めて印象的でした。この唐辛子、菅野さん達にとってきっと、まちの未来のシンボルなのでしょう。


 20名の参加者は、それぞれ問いを立て、浪江町という「原発被災地」に実際に足を運び、キーパーソンから話を聞きました。その中で感じたことは一人ひとりそれぞれですが、「来てみなければわからなかった」という声が多く聞かれました。

(レポート、写真:ふくしま“みち”さがし 情熱がっこう 浪江Another Sky編参加者、構成・編集:いわき経済新聞編集部)

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